何も教えないことが上達のコツ。

「パパー、スキーおしえてよ」
チャックが学校の体育の時間にスキーをするらしい。

 

生まれて初めてのスキー。
雪の上を滑るのは、昨年のソリ遊びぐらいである。
自分の経験から、最初はかなり苦労したような・・・。
泣きながら、”もうやりたくない”
と言ってるチャックが目に浮かぶ。

 

さっそく近くのスキー場に行くことに。
何も知らないチャックは、車の中でもウキウキである。
スキーの道具は何も持っていないので、ウェア以外はレンタルすることに。
自分のスキー道具は、ずっと前から倉庫に眠ったままなので一緒にレンタル。
ブーツを履いて、スキーとストックをもって
いざゲレンデへ。
「パパー、待ってー」
チャックはロボットのような歩きになってしまい、
なかなか前に進まない。(これも経験のうち)

 

なんとか、初級コースのすこし上ったところにたどりついた。
まずはスキーの履き方から。
斜面なのでなかなかうまくいかない。
ようやく履けたのはいいのだが、チャックは立っているだけで精いっぱい。

最初は、パパのスキーの内側に入って一緒に滑ることに。
スキーをハの字にして、ゆっくり滑った。
「チャック、どうだった?」
「気持ちよかった」
すぐにスキーを脱いで2本目に向かった。
2本目も同じように滑った。
「チャック、どうだった?」
「風が気持ちよかった」


「もっと滑りたいから早く行くよ」
3本目、4本目と一緒に滑り、
5本目を滑ろうとしたところで、
チャックが「ひとりで滑るからパパは先に行っていいよ」
自信満々の顔だ。
少し不安だったが、
「スキーをハの字にするんだよ」とだけ言って下で待った。
すると少しぎこちないが、転ばずに最後まで滑ってきた。止まったとたん、
「楽しいー」
「早く行くよ」

本数を重ねるうちに、スピードも上がってきた。


8本目あたりの時、同じように先に滑って下で待って見ていると、チャックの滑ってくる方向に人が止まっているではないか。
あぁーぶつかるー
と思ったとき、シューッと曲がった。
そして何もなかったように滑り降りてきた。


チャックにはスキーをハの字にすることと、
前を向いて滑ることしか言ってなかったのに、
いつの間にか曲がることができるようになっていた。

 

10本滑ったところで、休憩することに。
チャックは、大好きなアイスをほおばりながら機嫌よく自身の滑りを振り返っている。
「慣れたころによくケガをするから、気を付けるんだよ」
「わかったよ、チャックは大丈夫だから」

「パパー、リフトに乗ってみたい」

「それはまだ早いよ。もうちょっと滑れるようになってから」

「いいから。いいから。早く行くよ」

「じゃあ、1回滑ってから最後にリフト乗るよ」

 休憩前より軽快に滑って、いよいよ初リフトへ。


リフト1回券を買って向かうと、
乗り場まで坂になっている。関門だ。
スキーを履いてカニ歩きで登らなければいけない。
案の定、チャックは後ろに下がったり、スキーが交差したり、うまく進めない。
それでも「ひとりでするから」
と、必死に頑張った。
少し手を貸してなんとか乗り場の上にたどりついた。


そして、リフトが回ってくる場所に進み、二人並んで
「よいしょっ」
リフトはゆっくり上がっていき、
「パパー、遠くまで見えるよ」
「だんだん高くなっていくー」
「なんかの足あとがあるよ」
「風も冷たくて気持ちいいね」
リフトに乗ることで、いろいろなことが発見できた。


うまく乗れるか不安で最初は躊躇したが、横に座ったチャックの顔を見ると、乗ってよかったとつくづく思った。


しばらくすると、降りる所が近づいてきた。
バーを上げて準備。
さすがに降りるのは難しいので、
チャックを横にかかえて
「よいしょっ」
ゆっくり前に進み、コースの上に滑り降りた。
初級コースとは言え、かなり長いコースである。
上からもどんどん滑って来て、人も多い。


「ゆっくり滑るからパパの後ろにしっかりついて来て」
「パパは先に行って。いいから。いいから」
「ハの字にして、前を見るんだよ」
と言って、先に滑って途中で待つことに。
比較的安全な場所に止まって見上げると、
チャックはもう滑り出していた。


いい調子だ。
こっちに近づいてきたので止まるのかと思ったら、
笑いながら目の前を通過。
スピードも出てる。
危ないと思い、チャックを追いかけた。
するとチャックの滑る先にボーダーが数人止まっている。
スピードも出ているし、転ぶか、ぶつかるか時間の問題。必死に追いかけてチャックを捕まえようとした瞬間、
すぅーっと右にターンをした。
そのあとも、その調子で最後まで滑り切った。


チャックは満面の笑みで
「パパー、一回も転ばなかったよ」
「めちゃくちゃ気持ちよかった」
(見てるこっちはヒヤヒヤだったけど)
「チャックすごいね、ほんと上手になったね。よく頑張ったよ」

 

スキーを返して、駐車場に向かう途中、
「パパー、のど乾いたからジュース飲もうよ」
「いいよ。パパも飲みたかったんだ」
自販機で好きなのを買ってそれぞれ飲んだ。
「おいしいーっ」
「パパー、いつもよりおいしく感じるんだけど」
「それはチャックが頑張ったからだよ」
「そうなんだ。また来ようねパパ」

 

今回、スキーに行く前はこれとこれとこれを教えなきゃ、と思っていたが、いらぬ心配だった。
何も教えなくても、自身の感覚と人の動きををまねて滑れるようになる。少し冒険させることも必要。


また、自然を肌で感じることの楽しさや、

滑り終わった後の充実感、爽快感が、

上達と前向きな気持ちを後押ししてくれているような気がした。